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大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)255号 決定

抗告人 山本泰得

相手方 小浜木材工業株式会社

主文

原決定を取消す。

奈良地方裁判所昭和三五年(モ)第二五九号仮処分決定取消申立事件を大阪高等裁判所に移送する。

理由

本件抗告理由は別紙のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

事情変更による仮処分取消申立事件の管轄は民事訴訟法第七五六条により準用せられる同法第七四七条第二項に明定するところであつて、右規定は同法第七三九条とは異り仮差押を命じた裁判所「又」本案が既に繋属したるときは本案の裁判所と定め、同条項の如く仮に差押うべき物の所在地を管轄する地方裁判所「又は」本案の管轄裁判所とは定めていないのでおる。従つて同法第七四七条第二項は同法第七三九条の如くその管轄が両者に選択的に定められているものではなく、本案が既に繋属したときには本案の裁判所のみがその管轄を有するものと解するのを相当とする。しかして、右本案裁判所とは本案が控訴審に繋属している場合には控訴裁判所を指称するものであるところ、本件記録によると本件仮処分取消申立のなされた昭和三五年七月二五日当時には本案事件はすでに大阪高等裁判所に繋属していたことが窺われるから、右仮処分取消申立事件の管轄は同裁判所に専属するものというべきである。そうすると、本案繋属後もなお仮処分を命じた原裁判所にその管轄があるものとして抗告人の移送申立を却下した原決定は違法であり、本件抗告は理由があるものといわねばならない。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八六条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 吉村正道 竹内貞次 大野千里)

抗告の理由

一、抗告人は相手方小浜木材工業株式会社を相手取り昭和二八年八月一二日奈良地方裁判所に奈良県吉野郡天川村大字洞川第六八四番地山林五十町歩の内順位第五二八番範囲土地の中央部に於て三反三畝十六歩の地上権山林の杉檜立木伐倒木が抗告人の所有であることの訴訟を提起し同庁昭和二八年(ワ)第一八六号事件として審理されたが、抗告人は相手方小浜木材工業株式会社に対し奈良地方裁判所昭和二九年(ヨ)第一三号伐木処分禁止処分命令申請をなし昭和二九年一月二〇日仮処分決定があり、右本案訴訟の請求権保全のための仮処分執行をしたところ昭和三五年四月一一日奈良地方裁判所は原告請求棄却の判決をしたので抗告人は右判決に対し控訴し御庁昭和三五年(ネ)第七四一号控訴事件として繋属中であるが相手方は抗告人を相手取り昭和三五年七月二三日に奈良地方裁判所昭和三五年(モ)第二五九号仮処分決定取消申立事件を提起しその理由として抗告人敗訴の判決言渡があつたので仮差押の理由消滅したということを原因として主張した抗告人は第一回の昭和三五年九月八日弁論期日に於て右本案訴訟は控訴審に繋属中であるから民事訴訟法第七六二条により大阪高等裁判所に移送すべきものであると主張したが同裁判所は第二回の同月二十二日の弁論期日に於て右移送申立は理由がないとして却下した

二、民事訴訟法第七四七条第二項は事情変更による仮差押の取消申立は終局判決を以てし其裁判は仮差押を命じたる裁判所又は本案か既に繋属したるときは本案の裁判所之を為すと規定するがゆえに本案未繋属の場合は仮差押命令を発した裁判所であるが、本案訴訟が繋属したるときは本案裁判所に管轄があること明かであり、同法第七五六条により仮処分にその規定が準用されるから本件の仮処分決定に対する本案訴訟は前項の通り、奈良地方裁判所に繋属したのであるから本案訴訟が原審繋属中ならば原審に本件仮処分取消申立事件の管轄権あるが既に本案訴訟が控訴により御庁に繋属中なれば同法第七六二条によりその管轄権が原審でなく御庁にあることは同条が本案の管轄裁判所は第一審裁判所とす但本案が控訴審に繋属するときに限り控訴裁判所とすと明定してあることにより明かである。原審裁判所は本案訴訟が控訴審に繋属したときには仮処分を発した裁判所と控訴裁判所とにそれぞれ管轄権があるものと解釈したのかしれないが同法第七四七条第二項は「本案の裁判所之を為す」と規定し第一審裁判所とは規定せず同法第七六二条は本案の管轄裁判所は第一審裁判所とし本案が控訴審に繋属するときに限り控訴裁判所とすとして管轄を規定しているので本案訴訟が控訴審に繋属する限りその管轄権は控訴裁判所に専属するものであることは同法第五六三条は本編に定めたる裁判所は専属なりとすることによりて認められる

三、民訴第七六二条が本案訴訟が控訴審に繋属するときは控訴裁判所の管轄とする旨規定したのは保全訴訟は本案訴訟に随伴するものであるから本案訴訟と審級を同じくし、被保全権利の適否並に存否に対する審査の便宜、被保全権利と本案訴訟の訴訟物の同一の審査の便宜、立証資料の便宜を得せしむるにありされば本案訴訟が控訴裁判所に繋属する以上仮処分取消申立事件も控訴裁判所に専属するものである(大審院大正八年(オ)第六九九号同年九月二七日判決民録二五輯一六七七頁、吉川大二郎著保全訴訟の基本問題四二二頁)

四、民事訴訟法第三三条は移送の申立を却下したる裁判には即時抗告をなし得る旨を規定し、仮処分訴訟は同法第五六三条により専属管轄であるのに移送申立を却下したのは違法であるから抗告をする

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